平成の名著 養老孟司著「遺言」

注目すべきは、これまでの養老孟司氏の本が(編集者が文章にする)語り下ろし(「バカの壁」以降)であったのに対し、この本が書き下ろしであるということである。もう一つの特徴はタイトルほどには、重くもなく、暗くもないということである。
養老孟司著「遺言」 2017年11月20日 発行 新潮社 (新潮文庫)

養老孟司のプロフィール

養老孟司 (ようろうたけし)
1937年(昭和12年)に神奈川県鎌倉市生まれる。
1962年 東京大学医学部卒業。解剖学教室に入る。
1995年 東京大学医学部教授を退官。
著書に 「からだの見方」 「形を読む」 「唯脳論」 「バカの壁」 「養老孟司の大言論」 他

本書の目次

はじめに
1章 動物は言葉をどう聞くか
2章 意味のないものにはどういう意味があるか
3章 ヒトはなぜイコールを理解したか
4章 乱暴なものはいいはなぜ増えるのか
5章 「同じ」はどこから来たか
6章 意識はそんなに偉いのか
7章 ヒトはなぜアートを求めるのか
8章 社会はなぜデジタル化するのか
9章 変わるものと変わらないものをどう考えるか
終章 デジタルは死なない
おわりに

本書からの抜粋

(23頁) ただ共感覚という現象が知られている。例えばアルファベットの文字に色がついて見える。Aという文字を見ると、同時に色が見える。
(59頁) そろそろとりあえずの結論を出そう。動物もヒトも同じように意識を持っている。ただしヒトの意識だけが「同じ」という機能を獲得した。それが言葉、お金、民主主義などを生み出したのである。
(121頁) 数学が最も普遍的行為の追求、つまり「同じ」の追求だとすれば、アートはその対極を占める。いわば「違い」の追求である。それは直感的に多くの人が気づいているはずである。
(169頁) たとえば日本の多くのメディアは、グローバル化を必然の傾向と見なしてきた。日本語で記事を書き、日本人の読者にそれを売って,これからはグローバル化だという。脚下照顧、そんなこと、信じる方が変に決まっている。

コメント

(紀伊国屋書店レビュー)
・図書館本。意識と感覚の違いを説明しつつ、現代社会の意味のないものの排除する事への警鐘など納得の部分と全く意味が理解出来ない章がありました。
・いつも小説しか読まない人間が、たまたまテレビで紹介されていて面白そうだったので、これまで読んだこともない養老孟司の書物を読んでみた。読み始めてすぐに感じてしまったのですが、書き手と読み手のレベルが違いすぎると、残念ながらせっかくの良書もその役割を十分に果たすことができないということですな。残念ですが、完敗です♪
・養老さんの25年ぶりの書きおろし。これまで語りおろしは、ジャムセッ・ションのような楽しさがあったけど、この本では語りおろしで書籍化されてきた言葉が、改めてスッキリとまとめられている印象です。絶対音感、アート、メンデルの功績の話が面白かったです。ご本人もこの本は「遺言。1.0」だとおっしゃっているので、「遺言。2.0」「遺言。3.0」が読めるのを楽しみにしています。

(読書メーター)
・何度も最後まで読んでみるとなんとなくわかってきたかな
・意識と感覚 この違いこそ現在の課題の根っこと気づく。答えは我々に任されている。

まとめ

・これまでの養老孟司氏の書籍が「語り下ろし」であったのに対して、久しぶりの「書下ろし」で、読みごたえがあります。
・「感覚所与」について、「同じ」について、「意識」について語られています。
・人にもよるが、哲学好きには、たまらなく面白い本である。(102頁に作者は「この本も意識を扱っているわけだが、多分多くの人が哲学の本だと勘違いすると思う。」と述べているが。)

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