新ネット小説 木下秀治氏作「新大阪ホテル」

<1970年台当初の世界情勢>
中国共産党はアメリカはじめ、各国から、経済封鎖をされ、追い詰められ、孤立状態であつた。今の北朝鮮のような立ち位置であった。当時日本の首相は佐藤栄作氏。何を思ったか、アメリカを尻目に、密かに、中国共産党に、手をさしのべて、救う手だてがないか探っていた。中国共産党としてはアメリカにべったりの日本なので、裏があるのか、疑っていた。
佐藤栄作氏の思いつきではなく、過去に石橋湛山氏が試みていた事実がある。
日本人には、負けはしたが、「アジアを植民地から解放するために始めた戦争である」という自負が残っている。
そのような世界情勢でした。

大阪中之島にたたずむ老舗の「新大阪ホテル」があった。戦前のピアニスト「原千恵子」の生涯を描いた小説にも,新大阪ホテルから電話をかける場面が描写されている。古くは旧ロシアのコスイギン首相が泊まった部屋も大事に保存されてあった。防弾ガラスであったと伝えられている。
…年…月…日の昼前に突然、衝撃のニュースが入った。
大阪ロイヤルホテルで食事会を開く予定であった佐藤首相が急遽、新大阪ホテルに変更すると申し出があった。
従業員たちに緊張が走った。調べると、佐藤首相個人の意向だそうな??
折しも、中国との国交回復前で、事前に中国との交渉が続けられ、当ホテルにも国交が無いはずなのに中国の外交筋が寝泊まりしていた。
朝は小宴会場で、団体に中国粥を提供していた。
たまたま、昼午後からのレストラン責任者は当ホテル一番の切れ者の田中係長である。
すぐにロイヤルホテルから、田中係長に電話が入った。「ロイヤルホテルのスタッフを送り込む」と。
田中係長は断った。おそらく佐藤首相はスパイの存在を感じ取って、急遽判断したのだろう。
だからそれに対応しなければならない。
レストランの朝食を担当していたウェイターたちはとっくに帰った後だ。
どう、やりくりするかだ。
粗相するわけにはいかない。少数精鋭で、この舞台を乗り切らなくてはいけない。
レストランはベテランと、新人で2人だけで対応してもらうしかない。
喫茶部には一人、レストラン経験のあるベテランがいる。新人を代替要員として喫茶部に送り込み、彼を使う。
宴会場にも声をかけ、かろうじてギリギリスタッフは整った。
係長は喫茶部の彼に
「時間が来たら呼ぶから、それまで、喫茶部で仕事をして!」
喫茶部の彼はステンレス盆に紅茶をのせて、広いロビーを走り回っていた。
紅茶をステンレス盆にのせて小走りに、はるか向こうまで、ロビーを横切ろうとしたその時、田中係長がレストランから顔を出し何か叫んでいる。「そこで止まれ!」
振り返ると、佐藤首相が閣僚たちとこちらに向かっている。彼がスピードを上げて逃げると、失敗する恐れがある。立ち止まるしかない。
佐藤首相は田中角栄氏と話し夢中で、目は前方少しうえを見ている。わずかに赤ら顔になっている。
閣僚たちの靴音は力強く響いてくる。
やがて一団は彼の前後を通り過ぎて、レストランに入っていった。
そのあと、田中係長がレストランから顔を出して、胸をなでおろすしぐさを見せる。
とりあえずは、良かった。
閣僚たちはレストラン横の小宴会場「スワンルーム」に入った。
静かに食事会が始まろうとしている。
喫茶部の彼は左手に白の皿を10枚乗せ(独特の持ち方がある。)
一枚ずつ閣僚たちの前に配り続ける。
その後をすぐに、田中係長が“ステンレスの大皿”にのった料理をお客さんの前の皿に格好よく盛り付けていく。
オードブル、スープ、フィッシュ、アントレ…と同じ動作が続く。
途中で、遅れたメンバーが入って来て、末席に座った。
スタッフは一応そのお客さんに「コースの最初から始めますか?それとも皆さんに合わせてコースの途中からスタートさせますか?」と伺います。
なんと、そのお客さんは、「最初から」と。
皆さん食べ終わって、片隅のお客さんの前だけがカタカタと音が響く。
佐藤首相は腕を組んで、彼をじっと、眺めている。佐藤首相は目が大きいから、睨んでいるのではないと思うが。
スタッフも空気を読んで、残りの料理をすべて、彼の周りに出しきった。
田中角栄氏は周りの雰囲気を感じてか、半眼になって、目の前のテーブルに視線を落として、静かにしている。多くの閣僚は皆その姿勢でいる。
ほどなく、スタッフ全員ホテル関係者が締め出されて、秘密会議が始まった。

はしがき

本来ホテルマンたるものホテル内で起きたお客さんの出来事など外部に漏らすことは厳禁である。鉄則である。
もう、時効でゆるしてもらえるかな。(喫茶部の名前はソーダファウンテン)

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