城山三郎氏による企業小説です。この冊子には4つの短編が載っています。
城山三郎著 「緊急重役会」 2018年11月10日 新装版第1刷 (文春文庫)文藝春秋
城山三郎氏のプロフィール
城山三郎(1927年8月18日-2007年3月22日)本名は杉浦英一です。
経済小説、伝記小説、歴史小説の作家。
愛知県名古屋市中区に生まれる。
・1945年愛知県立工業専門学校(後の名古屋工業大学)に入学をする。
・帝国海軍に志願入隊。
・海軍特別幹部練習生として、伏龍部隊(特攻隊)に配属。訓練中に敗戦となる。
・1946年東京産業大学(後の一橋大学)の予科に入学。
・1952年一橋大学を卒業。
・愛知学芸大学(後の愛知教育大学)商業科文部教官助手に就任。
・1963年6月愛知工業大学専任講師を退職する。作家に専念する。
本書の目次
緊急重役会
ある倒産
形式の中の男
前々夜祭
解説・楠木建
各短編初出誌一覧
緊急重役会 「オール読物」 昭和37年1月号
ある倒産 「オール読物」 昭和39年10月号
形式の中の男 「小説サンデー毎日」 昭和47年6月号
前々夜祭 「別冊文藝春秋」 昭和41年第96号
本書からの抜粋
(78頁) 指先で、丸められた新聞をひろい、泣き笑いの顔で恩地に見せる。「皺を伸ばして持ち帰ってくれ。そして帰ったらすぐ山村を呼びつけるんだ。俺は山村に訂正記事を書かせる。これまでの発送先に全部送らせるんだ。」 (…「緊急重役会」)
(171頁) 「不景気などいうて不勘定なるは、不精の家なり、という諺もある」「そんな諺、はじめて聞いたわ」「諺というより。近江商人の家訓だな」 (…「形式の中の男」)
(248頁) 大曾根がこの調子で人生に幾人もの敵をつくってきたのだと思った。依怙地な男である。敵は自然に出来る。その敵に対しては、倒すか倒されるしかないと思い込む。全力を振るって、打撃を加える。また、次に敵が浮かぶ。前社長にも、後継者たちにも彼は敵の匂いを嗅いだ。 (…「前々夜祭」)
コメント
読書メーター
・短編集と言えど一つ一つの作品に昭和30〜40年代の高度成長真っ只中を生きる初老経営者達の苦悩が深く泥臭く表現されている。半世紀過ぎた今となっては女性の立場も大きく変わり、何よりも寿命が延びた。著者の敬意を払う意味で、これはもう歴史小説と言っても良いかもしれない。
・企業のビジネス内容でなく、「社長」という立場に囚われた人々の悲喜劇。色と欲(権力)という人間の根源を描く点で、経済小説も一つの文学だと思う。
・会社の社長や専務にまで上り詰めながらも立場が弱くなった男たちの悲しいサラリーマン短編集4本。こう見ているとやはり仕事以外にも楽しみを持ってないと将来生きるのが辛くなりそうだと思った。
・ふた昔もまえ、昭和の色やにおいが色濃く残るサラリーマンの悲哀を描いた短編4作。 社長の椅子を渇望し、銀座のクラブに若い女を囲って暮らす良いご身分のようだが、社内闘争に明け暮れ休みもなく本当に幸せな暮らしと言えるのだろか。
・社長、専務などの社内での微妙な立場が描かれています。設定がかなり前の感じですが違和感なく読めました。
まとめ
・城山三郎氏の企業小説はサラリーマンあるあるの世界。決して、現実社会を飛躍して、描いたものではない。
・当時、日本国内において、企業小説という分野を切り開いた第一人者として、城山三郎氏は画期的であった。
・いつの時代も、新聞記者はおんなじですね。(緊急重役会)
☆ひとつひとつの短編にはテーマがあり、ふと、本から目をそらし、自分はどうだろうと、思いふける。

