麻酔の科学-手術を支える力持ち

“昭和平成の名著シリーズ”はこの時代の素晴らしい著作物が埋もれたままで、人目に触れることなく、忘れ去られるのを防ぐのが狙いです。
今回の本の著作者は1960~1970~年代にアメリカの最先端の現場で、医療を学び、どのような新しい医療機器が発明され、改善され、進化して行ったかを直に見てきた証言者です。そして、日本に導入され、今の日本の医療体制が確立されたのかを手に取るように解説してくれます。

諏訪邦夫著 1989年1月20日(平成元年)初版 講談社

著者のプロフィール

諏訪邦夫
1937年に東京に生まれる。
東京大学医学部卒業
ハーヴァード大学マサチューセッツ総合病院、ハーヴァード大学助手、
カリフォルニア大学サンディエゴ校助教授、
東京大学助教授、帝京大学教授、
コロンビア大学客員教授
医学博士。
麻酔学、血液ガス、呼吸管理をテーマにした著書が多数ある。
他に訳書:コムロウ著“医学を変えた発見の物語”、“心臓をめぐる発見の物語”
他に医学教育用パソコンソフトの出版
趣味は音楽、水泳、スキー

本書の目次

はじめに
第1章 エーテルの犯罪は不可能―吸入麻酔の話
第2章 ハイジャック機に笑気を使えなかった理由―麻酔状態とは何か
第3章 お酒と麻薬の共通点と相違点ー麻酔薬は注射で眠る睡眠薬
第4章 南米原住民の巧妙なー筋肉をやわらかくする薬
第5章 「心配で食事がのどをとおらない」とはー交感神経の働き
第6章 いちばん大切なガスは酸素―麻酔で酸素が足りなくなる問題
第7章 身体の外から動脈の血の色を見るーいろいろな監視装置
第8章 手術で死なないために―手術と麻酔の事故
第9章 手押しの人工呼吸が鉄の肺に勝った―呼吸管理と集中治療
第10章 もう一つの麻酔の応用-ペインクリニック
第11章 だれもが天皇陛下と同じ医療を受けられるー手術はこう行なわれる
索引

本文中からの抜粋

・(裏表紙)
手術では麻酔で意識を失わせます。…それなのに、一般の方々は、自分の身体をまかせる麻酔医の…学識と経験…病院の設備と装置が充分か…。
・(28頁)
…それに“華岡流医学”的な秘密主義が濃厚なのです。最も江戸時代は医学のみでなく数学のような…。これが日本の科学の進歩を限定したものに留めた一因…同じ傾向が現代日本の社会にも濃厚に残っているのは…
・(77頁)
そこで、スミスという麻酔医が自ら挑戦しました。友人に人工呼吸を頼んで、自分にクラーレを注射して意識がなくなるかどうかを確認したのです。医学の歴史を見ると、薬を自分に注射してみたとか、機械を自分の身体に使ってみたとか、細菌を自分に感染…。
・(175頁)
麻酔は広い意味での睡眠中毒の一種です。…吐いたものが肺に入るのを気管内挿管によって防ぐこと、酸素を充分に与えること、呼吸が不足なら、人工呼吸もすること、血圧が下がらないように輸液や強心剤や昇圧剤を与えることなどが手術室での麻酔のやり方です。

まとめ

・世界の医療機器、薬、施術がどのように進化してきたか。歴史を振り返って、詳しく解説してくれます。
・アメリカでの最先端医療機器に直接携わってきた経験談を臨場感を交えて、語っています。
・この本を読んでみると、1960年代、日本の地方の医療体制はまだ、貧弱で、確立されていなかったのだなあと分かります。これほど、麻酔医が患者に寄り添う体制ができていたら、…。

タイトルとURLをコピーしました